山中慎介 ボクシング業界に危機感 競技人口は全盛期の半分

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 ボクシング界に新風を吹き込もうと、バンタム級ホープたちがトーナメントで優勝を争う「山中慎介 presents GOD'S LEFT バンタム級トーナメント」が7月23日、後楽園ホールで開幕する。

 出場選手は若手ホープたちで、A級ボクサー(8回戦以上の試合ができるA級ライセンス保持者)7人。優勝賞金は100万円で、スポンサーから副賞が贈られる。これだけなら珍しくないが、今大会はWBCバンタム級王座を12度防衛した山中慎介さんがアンバサダーになっているところがみそだ。

 大会を主催するDANGANは、いま国内で最も多くのボクシングイベントを開催しているプロモート会社だ。35歳の古澤将太代表は次のように説明する。

ホープたちが出ているトーナメントなんです、と言ってもなかなか注目してもらえません。そこで山中慎介さんの冠をつけて注目を集め、これからの選手たちの知名度アップにつなげたいと考えました」

 山中さんはただ名前を貸すだけでなく、記者会見や抽選会に顔を出し、試合でプレゼンターを務めるなどして大会をアピールする。現役時代、試合に勝つと自分へのご褒美として腕時計を買っていた経験から、優勝者に高級腕時計をプレゼントしようと言い出したのは山中さん本人だ。なかなかのやる気である。

 

・ボクシング界が抱えるシビアな現状。

 注目度を上げようとすることはどんなスポーツやイベントにとっても当たり前の話であるが、ここからは今大会が開催にいたった背景に踏み込んでいきたい。そこにはボクシング界のシビアな現状が見えてくる。

 昨今は世界チャンピオンの数が増えると同時に、“無名の世界チャンピオン”が増えたことは、スポーツファンならいまや常識であろうか。

 6月24日現在、日本人の男子世界チャンピオンは暫定王者2人を含めて計7人。確かに多く、埋没するチャンピオンが出てくるのは確かだろう。でも、それだけが無名世界チャンピオンの生まれる理由なのだろうか。古澤代表は次のように話す。

「大切なのは世界チャンピオンになるもっと前から知名度を徐々に上げていくことだと思います。たとえ実力があって世界チャンピオンになったからといって、それまで無名の選手がいきなり有名にはなれません」

 早い段階から注目を集める努力をして、その選手が日本タイトル、世界タイトルと階段を上っていくストーリーを提供できれば理想的だ。だからこそ、トップだけでなくもう少し下の層にも目を向けてもらいたい。山中慎介トーナメントにはそのような狙いがある。

 

 


・全盛期は『ガチンコ・ファイトクラブ』の頃。

 もう1つ、ボクシング人口の減少も今回のトーナメント開催の要因となっている。意外に思われるかもしれないが、説明してみよう。

 ボクサー・ライセンスの保持者(要するにプロボクサー)は1994年に2000人を超え、'04年に最盛期を迎えて3630人に達した。テレビのバラエティ番組の企画『ガチンコ・ファイトクラブ』が人気だったころである。

 ここからボクサー・ライセンス保持者は減少を続け、'16年に2000人を割り、'18年は1736人。なんと最盛期の半分以下まで減ってしまった。

 業界も大いに危機感を持ち、37歳定年制ルールを緩和したり、プロテストの受験資格年齢を引き上げるなどの対策を取ってきた。結果、ベテラン選手が引退せずに残るケースは増えたものの、若いボクサーは決して増えていない。いま、ボクシング界ではキャリアの浅い選手が主体の4回戦ほど試合を組むのが難しい、というのが現状だ。

 

・強い選手ほど相手が見つからない。

「選手が減っているので日本人選手同士の試合が組みにくい。若手選手を大切に育てようとするあまり、思い切ったチャレンジマッチに二の足を踏むケースも見られます」(古澤代表)

 この状況であおりを食っているのがアマチュアで実績を残してプロデビューした選手たちだ。彼らの多くはC級(4回戦)ではなく、B級(6回戦の試合ができる。4回戦で4勝すると昇格)でデビューをする。アマチュア経験のないB級選手とアマ出身の実力者では、多くの場合、後者のほうが実力は高い。

 こうなると対戦相手がなかなか見つからない。タイトルホルダーではない実力者が嫌われるのは古今東西の常識で、さらに選手数の減少がもともと困難な事情に拍車をかけるのだからたまらない。

 相手のいないアマ出身選手はデビュー戦から実力の不確かな(たいてい弱い)外国人選手とばかり戦うはめになり、経費ばかりかかって経験値をなかなか上げられない、という悪循環に陥ってしまうのだ。

 

 

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